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名古屋高等裁判所 昭和31年(ナ)4号 判決

原告 長田旭

被告 愛知県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は被告委員会が原告に対し昭和三十一年九月二十二日愛知県選挙管理委員会告示第七十一号及び同第七十二号を以て為した昭和三十一年四月二十九日執行の碧南市議会議員一般選挙における原告の当選を無効とするとの裁決は之を取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求の原因として原告は昭和三十一年四月二十九日執行された愛知県碧南市議会議員一般選挙において立候補して選挙の結果当選と決定されたものであるが落選候補者である訴外杉浦敏一、金原義一は夫々愛知県碧南市選挙管理委員会に対し原告の当選について異議の申立を為して之を棄却された(昭和三十一年六月十二日)けれども更に夫々訴願の申立を為したところ被告委員会は右杉浦の訴願については愛知県選挙管理委員会告示第七十一号右金原の訴願については同告示第七十二号を以て昭和三十一年九月十四日右訴外人等の主張を容れ原告の当選を無効とする旨の裁決を為し右裁決は昭和三十一年九月二十二日附愛知県公報によつて告示された而して右裁決の理由とするところは原告の得票数中には無効とすべきもの二票杉浦政七の有効投票とすべきもの三票及び按分すべき投票とすべきもの一票あり、以上を差引いた五二三票に按分票二、一四三票を加えた五二五、一四三票を加えた五二五、一四三票となり次点者訴願人杉浦敏一の得票数は按分票〇、九〇六票を含む五二九、九〇六票となつて原告の得票数をこえるから原告の当選は無効であると謂うにあるが被告委員会の前示各投票の効力に関する判定は誤認であつて原告の当選の効力には消長なきものであるから被告委員会の為した本件裁定は不当である換言すれば被告委員会は裁決の理由は昭和三十一年九月二十二日愛知県公報第三八七八号記載の通りであると述べ、且その投票を点検調査したとあるもそれはすべて原告に対する投票のみを点検調査しその得票中「アサヒ」「マサヒ」の何れか確認し難い投票が混入しておるものとしその理由を述べておるが之は甚だ不当である原告に対する得票中に被告委員会の認定の如きものありとの点はすべて原告の承服し難いところであるが、しかし仮りに百歩を譲りかかる認定が為されるものとすれば候補者杉浦政七同杉浦敏一の得票についても逐一かかる点検調査が為されなければならない事実当選人杉浦政七の得票中に「アサヒ」即ち原告の得票と認定すべきものが相当存在しているのである、然かるに被告委員会は此の点に付何等点検調査を為していないことは前記裁定書の理由において何等触れていないことより明白であつてかかる不当な偏頗の裁定は取消さるべきである、更らに又杉浦敏一の得票中に杉浦敏一か杉浦政七か不分明のもの杉浦敏一の得票と認め難いものが若干存するかかる杉浦敏一の得票中に無効のものが存するや否やを定めず軽率に杉浦敏一の得票を五二九、九〇六票なりと漫然裁定し原告の当選を無効とした被告委員会の裁定は甚だ不当である詳言すればおよそ選挙においてはその投票記載にあらわれた選挙人の意思がいかなる候補者に投票したかをあらゆる面において精密に考察し吾人の経験則にそくして判断すべきであり、苟くも選挙人の意思がいかなる候補者に投票したかを判断し得る以上之を有効投票として選挙人の意思を尊重することがすべての選挙を基調とする代表民主主義政治の根本理念に合致することは夙に最高裁判所の判示するところである(昭和二十五年七月六日判決)本件においてもその投票の有効無効を検するに付選挙人の意思を充分に尊重しなくてはならないこと亦論のないところである、そこで此の趣意に副つて本件選挙の投票中当選人杉浦政七原告長田旭次点者杉浦敏一の各投票中の問題票に付考察することとする此の考察に先立つて原告は碧南市新川地区において永年アサヒ堂なる商号を用いて印刷業を営み同市旧新川地区内ではアサヒ堂さんが通称となつているものであること及び原告は過去二回に亘り(今度で三度目)同市市会議員選挙に立候補しいづれも当選していること右三回を通じていづれも甲第三号証に示す通り「アサヒ」を主題とするポスターを用いていること及び当選人杉浦政七は今回の選挙に当り「マサ七」(甲第四号証参照)なる略号を用い原告の「アサヒ」と洵に紛れ易いこととなつたことを充分に考慮に入れておかなくてはならない

さて先づ杉浦政七の問題票を検討する便宜上検証調書添付の附録第三の投票10乃至32の二十三票中12 13 14 15 16 17 20 24 25 26 27 28 30 31 32は疑問とみるべき点は多々存するがその筆法書体等を考慮し且政一、政市なる名を用いる候補者が他にない点を併せ考えるときは選挙人の意思が候補者杉浦政七(マサ七)を指称するものと判断せざるを得ない従つて此の十五票は杉浦政七の得票であろうそこでそれ以外のものに付検討するに

10の投票は「マサヒ」であつてサとヒの字は誠に明かに読み得るのであつてマ丈が問題である「マサ七」「マサヒ」「アサヒ」とただ一字丈の違いである従つて冐頭の「マ」の字に重点を置いてみれば「マサ七」末尾の明確に書いてある「ヒ」に重点を置いてみれば「アサヒ」と解し得るのであるそこで考えなくてはならないことは原告は既に過去二回に亘つて市議会議員に立候補し常に「アサヒ」なる略号を用い一般人に周知となつている点及び吾人の経験上「七」を「ヒ」に誤ることは殆んどないものである点杉浦政七が今回はじめて「マサ七」なる略号を用いた点とを併せて仔細に検討すると選挙人の真意は前示10の投票は原告の投票「アサヒ」と認めるのが相当である

次に11の投票であるが之も全然前の場合と同機な考慮から原告の投票と考えるのが妥当である殊に碧南市における選挙人の文字に対する習熟程度より「ヒ」を「七」と書することの存することは洵に見易いことを併せ判断するときは尚更である

次に18の投票であるがこれも亦右に同じ観点から寧ろ原告の投票と判断するのが選挙人の真意に副うものであると考える

次に19の投票は洵に判断に苦しむところであるが冐頭の文字を「マ」と書いたのを「ア」と訂正したものと解せば前叙の各得票の事情より原告の得票と解することが妥当であることは明かであるが反対の解釈も成立し得るので茲に疑問の多いところと述べるに止める

次に21の投票は冐頭の文字を「マ」と解するか「ア」と解するかによつて原告の得票ともなり得るのであつて簡単に杉浦政七の票とはいえない

次に22の投票は10の投票と同断で原告の得票とみるのが却つて選挙人の真意に副うものと判断する

次に23の投票は疑問の多い票で「マサ七」と読み得るとは思えず寧ろ「アサヒ」か「マサ七」かいづれとも判読のできない無効の投票と解するのが妥当ではないかと思料する

次に29の投票は「アサヒ」と読むのが最も妥当と解する即ち病気で手の振う者が文字を書く場合によく見られるが如き書体であつて「アサ」は何人も直ちに判断し得る程度であるが「ヒ」が手のふるえる為横の「一」が少しく延びてしまい一見「七」の如く見ゆるもその筆法等より断ずるときは「ヒ」であつて決して自ら書して「七」となしたものではないこのことは既に碧南市選挙管理委員会も認めるところである(証人岡部健太郎同岡本銀次郎同加藤梅太郎等の証言参照)以上を綜合するときは杉浦政七の有効投票とされた票中に原告の得票と見るべき票が少くとも五票は存するものと思料するのである

原告の得票中の問題票を検討する則ち検証調書附録第四の投票33乃至49の十七票中33 34 36 37 39 40 44 46 48 49の十票はいづれもその筆法書体よりする選挙人の真意及び「アサイ」なる名を用いる候補者の存しない点を併せ考慮するときは原告の得票と判断するのが極めて妥当であるそこでその他の投票に付検討する

先づ35の投票は「サ」と「ヒ」は明かに書いてあり第一の文字が「マ」と読み得るが「マ」と「ア」とがやや書き誤り易いことは吾人の経験則上よりも明かなところであり「アサヒ」の中「サヒ」が明確に書いてある以上「マ」は「ア」の書き誤りと断ずることは事理の上から当然である然るにこの票に関し被告委員会は「マサヒチ」の「チ」を誤つて脱落したものであると裁決しているが投票面にあらわれざる文字までを附加して判読するということはこの場合洵に超通念的な暴論で排斥しなければならないと信ずる

次に38の投票はやや疑問の票でその筆法書体がやや明確に書いてあるに拘らず第三字目が「七」と読み得る点及び冐頭の一字目が「マ」か「ア」か分明を欠ぐ点において或は杉浦政七の得票とも見得る惧れのある投票である

次に41の投票はアサの一字目二字目は明確に判断し得られるに拘らず第三字目は「七」とも一見判読できないでもないが尚仔細にその筆法等を検討するときは「ヒ」の文字の横の一を少しく乱暴に書いた為「ヒ」が「七」と見得る如くなつたものと見るのが妥当である従つて「アサヒ」と判断する

次に42の投票は第三字目が「フ」とありいささか分明を欠くが書体等より考え「アサヒ」と書く真意であつたことが明かに掴めるのであつて原告の有効投票と思料する

次に43の投票も第一字目がいささか明確を欠ぐが「ア」と書く目的であることが明かに判断せられ「サヒ」と判読し得る以上原告の有効投票と判断するのが至当である

次に45の投票であるが第一字目は筆勢より見て明白に「ア」であり決して「マ」ではないしからば「ヒ」がその筆法の如何ではその勢から「」となつて「七」と見違える書体となり得ることは前叙の通りである三字の中「アサ」の二字が明白であるときは之を前叙の事情と併せ考え「アサヒ」と判断することこそ事理上当然であるといわなければならない従つてこの投票も原告の有効投票と認むべきである

次に47の投票はこれまたいささか不分明の点のところも存するが一字一字を仔細に検討するときは第一字目の「カ」か「ア」か明白ならざる文字も書体筆勢等より「ア」なる文字中の「ノ」の筆力が勢余つて上に出たもので「ア」と解しうるものである又第三字目はその書体筆勢等よりみて「ヒ」の文字と解するのが正当であるよつてこの票も亦原告の有効得票である以上を綜合するときは原告の投票で問題視される票の中一票乃至二票が杉浦政七の票と解し得るのみで他の十五票は明かに原告の有効投票と判断できるのである

杉浦敏一の有効投票として処理されたものの中の問題票を検討する則ち検証調書附録第五の投票50乃至61の十二票中53 54 58 59は疑問の点はあるが一応杉浦敏一の有効投票と目すべきものと解する

しかし50 52 56 57の各投票の第三字目はいづれも之を容易に「敏」とは断定し難い候補者中「杉浦姓」を名乗る者は杉浦敏一の外に前示杉浦政七があるが「政」と「敏」とは少しくその字をくずすときは極めて類似の点が多くなるのであつて上記投票はいづれも此の点が不分明でただ第四字目が「一」である点を考えて杉浦敏一の票とも見られたというに過ぎない

次に51 55の投票は明かに第三字第四字目がいづれも「政一」と読むべきであつて之を敏一と判断することは文字を知らざるものと謂うべきである之を杉浦政一と判断するときは前叙31 32の投票と同じく杉浦政七の有効得票と解さなくてはならない

次に60の投票は明確なる書体筆蹟にて杉浦繁一と書いてあつていかなる点よりも杉浦敏一の有効投票ではない候補者にあらざる者の氏名を書いたものとして無効にすべきである

次に61の投票は全くいかなる文字を書いたものか不分明なもので明白なるは第三字目を「一」とみた場合の「一」丈であるこれでさえ果して一字としての一であるか二字目の一劃を為しているものか判らぬ書体である試みに候補者中姓名末尾に「一」の字のある者をみるに長田精一、村上隆一、新見今朝一、平松只一、杉浦敏一、金原義一、石川祥一の八名の多きを数えるのであつて本投票は平松只一の得票でもあるようであり新見今朝一の票とも解し得るふしも存して居て全く不明であるから無効の投票と解すべきである以上綜合すると杉浦敏一の得票中の問題票十二票中少くとも二票は無効であり二票は杉浦政七の有効投票と解すべきである

従つて以上述べたところを綜合し各有効投票を検討すると先づ杉浦敏一の有効投票は減少して五二五、九一票となるわけである之に反して原告の得票は紛入してあつた按分票一票を控除して之に杉浦政七の有効投票とされている中に紛入していた原告の得票五票を加え更に原告の得票中杉浦政七の得票とすべきもの二票を控除するときは原告の総得票数は五三二票余(按分票を加えれば更に増加する)となる次第である従つて原告の得票数は増加こそすれ減少はしない仮りに百歩を譲り杉浦政七の得票中の原告の有効投票と認むべきものは一票丈であるとしても原告の総得票数は五二八票余となり杉浦敏一の総得票数との間に三票余の差が生ずるのである従つて原告の本訴請求の正当なことは明白であると述べ愛知県碧南市選挙管理委員会の最初の当選の告示には当選議員が二十八名で原告は最下位の当選者で得票数五三〇、八五票次点の杉浦敏一がその得票数五二九、九一票であつたと附陳した。(立証省略)

被告委員会代表者は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張に係る訴願が提起され被告委員会が当該選挙の投票を調査の上右訴願を相当と認め碧南市選挙管理委員会の決定を取消し原告の当選を無効とする旨の裁決を行つたものであること右委員会の最初の当選告示には当選議員二十八名で原告は最下位の当選で得票数五三〇、八五票次点の杉浦敏一の得票数五二九、九一票であることは之を認めるも被告委員会は個々の投票に付点検調査を行い各投票について昭和三十一年九月二十二日愛知県公報第三八七八号(乙第一号証)に記載通りの理由によつてその効力を認定し前記裁決を行つたものであり原告の主張は理由のないものであると述べた。(立証省略)

理由

原告が昭和三十一年四月二十九日執行された愛知県碧南市議会議員一般選挙において立候補して選挙の結果当選と決定されたが落選候補者である訴外杉浦敏一、金原義一が夫々愛知県碧南市選挙管理委員会に対し原告の当選について異議の申立を為して之を棄却され更に夫々訴願の申立を為したところ被告委員会が右訴願を容れ碧南市選挙管理委員会の決定を取消し原告の当選を無効とする旨の裁決を行つたこと右委員会の当初の当選告示には当選議員二十八名で原告は最下位の当選で得票数五三〇、八五票次点の杉浦敏一の得票数五二九、九一票であつたことは当事者間に争のないところであるが原告は被告委員会の裁決の理由は昭和三十一年九月二十二日愛知県公報第三八七八号記載の通りであり且その投票を点検調査したとあるもそれはすべて原告に対する投票のみを点検調査しその得票中「アサヒ」「マサヒ」の何れか確認し難い投票が混入しておるものとなしその理由を述べておるが右はすべて原告の承服し難いところであるのみならず候補者杉浦政七同杉浦敏一の得票につきても逐一かかる点検調査が為さるべきである事実当選人杉浦政七の得票中に「アサヒ」即ち原告の得票とすべきものが相当存在しており又杉浦敏一の得票中にも同人の得票か杉浦政七の得票か不分明のもの乃至は杉浦敏一の得票と認め難きもの若干存するにも拘らず軽率に杉浦敏一の得票を五二九、九〇六票なりと漫然裁定し原告の当選を無効とした被告委員会の裁決は甚だ不当であるとなして右三候補の疑問得票に付逐一詳説を為して原告の得票は杉浦敏一の得票を越え従つて原告の当選を無効とした被告委員会の裁決は失当であると主張するを以て以下順次之を検討することとするよつて検証の結果に成立に争のない甲第一号証(乙第一号証に同じ)同第二、三、四号証同第五号証の一乃至七証人岡部健太郎同岡本鉐次郎同加藤梅太郎同石橋重平同岡本広治並に原告本人の各供述を綜合して当事者間の係争投票を点検調査するに先づ杉浦政七の問題票即ち便宜上検証調書添附の附録第三の投票10乃至32の二十三票中121314151617202425262728303132についてはその筆法書体等を考慮し且政一、政市なる名を用いる候補者が他にいない点を併せ考えるときは選挙人の意思は候補者杉浦政七(マサ七)を指称して投票したものと判断するのを相当とする

10(マサヒ)の投票は各文字自体は正確に記載せられているのである而して杉浦政七(マサ七)長田旭(アサヒ)の外には右投票に紛はしき名の候補者がいないので選挙人の意思がそのいづれを投票したものであるかにつき前顕各証拠を合わせ考え最初の字に重点を置けば「マサ七」なる如く最後の字を重視すれば「アサヒ」なる如く音読し得その他諸般の情状を考慮するも結局本件の場合においては右いづれを記載したか確認し難いもの(法六十八条七号)として無効と解するの外なく

11の投票については最初の字が「マ」とも「ア」とも紛はしいが最後の字はやや紛はしい点もあるが最初の一が長く出ているので「ヒ」ではなく「七」とみるのが相当で全体的観察において「マサ七」とするのが妥当であり

18の投票については全体的にみてやや疑義が存するが一字一字を点検するときは「マサ七」と見るのが相当であり

19は最初の字が訂正されて「ア」とも「マ」とも読めるが最後の字が「七」であるから全体的にみて「マサ七」とするのを妥当とすべく

21の最初の字がやや疑はあるが「マ」と見るのが相当で全体として「マサ七」と解すべく

2223は一字一字について点検すれば「マサ七」と見るのが相当であり

29については字はふるゑているが甲第五号証の一を併せみるときは「アサヒ」であつて原告の有効投票と認める

次に原告の得票中の問題票即ち検証調書附録第四の投票33乃至49の十七票に付検討するに33343637394044464849はその筆法書体全体より考え、原告が古くよりアサヒ堂なる商号を用いて印刷業を営み目下同商号の会社々長であること、アサイなる音読の類似性他に同名の候補者のないことを併せ考えるときは右はいづれも原告の得票と解するのが当然である

35については投票自体「マサヒ」と読めるのでその無効投票と解すべきこと前記10と同一であり

38は第一字目についてやや疑があるが第三字目が「七」であるところより全体的にみて「マサ七」と解するのを妥当とすべく

41は第一字目が「マ」か「ア」かやや明瞭を欠ぐが第三字目は「七」とみるのが相当なので全体的にみて「マサ七」の有効投票に入るべきものと解すべく

42の第三字目が明確を欠くが第一、二字が明確に「アサ」と記されあることと第三字目がそれ自体としては如何なる文字なるか判読することを得ないが七を記載したものとは解せられないこと第一字目が判然「ア」なること他の立候補者中「アサ」を含む又は之と誤られやすいものは「マサ七」以外になきことより選挙人の真意は右記載全体よりみて第三字目は「ヒ」の誤記と解し原告の有効投票とみるを妥当とすべく

43は第一字目がやや明確を欠ぐも結局「ア」と判読し得べく第二、三字の「サヒ」と合して全体的にみて「アサヒ」と記したもので原告の有効投票と解すべく

45は第一字目が「ア」か「マ」か明瞭を欠くも第二字目が「サ」であること第三字目は明らかに「七」とみるのが妥当であるので右を全体的にみて「マサ七」と読むのを妥当とすべく従つて杉浦政七の有効投票と解すべく

47は第一字目は一見「カ」の如く見え「フ」の最後が押えてもなくはねてもないが「ノ」が上につきぬけているので「ア」の書き誤りと見るのは相当困難が伴い又「マ」と読むことは到底至難であるから、一見した如く「カ」と判読すべく第二字目は明かに「サ」であるが第三字目が不明確であるが横棒がつきぬけているので「ヒ」ではなく寧ろ「七」と見られ全体を通じて「カサ七」と判読し得べきところ之に類した候補者は原告長田旭「アサヒ」と杉浦政七「マサ七」の外なきところ右記載を選挙人が右両名中のいづれに投票したものであるかは記載自体乃至前掲各証拠を合わせ考慮するも決し難いこと前記10に同じく無効投票と解するの外ない

次に杉浦敏一の問題票即ち検証調書附録第五の投票50乃至61の十二票に付検討するに53

545859については筆法書体等より推考して杉浦敏一の有効投票と解するを相当とすべく

50525657の各投票の第三字目がくずされているが第四字目の一と併せ考えると結局第三字目はすべて敏と見るのが相当であり

51は第三字目がくずされているが全体的にみて杉浦敏一と記されたものと解するのが相当であり

55は第三字目は明かに政であるので杉浦政一と記されたものとして前叙31 32の投票と同様杉浦政七の有効得票となるものが混入されているものとするのを妥当とすべく

60は明確に杉浦繁一と記されてあるので之を杉浦敏一と記したものとは解し難く結局候補者に非ざるものを記したもの(法六十八条二号)として無効投票と解すべく

61はその字体明瞭を欠くも之を注視すれば結局トシ一と記されたものと看取し得るので杉浦敏一の有効投票とみるのが相当であることを認定し得べく右認定に副わない前掲各証人の供述部分(主として意見)は採用し難く他に右認定を左右するに足る証左なし而して原告の有効投票中「オサダ」と記された原告と長田精一との按分票一票の存することは当事者の主張自体に徴し争のないところである

従つて以上を綜合し各有効投票を検討すると杉浦政七の得票中の10は無効のものであり29は長田旭の得票となるべきものであり、杉浦敏一の得票中60は無効55は杉浦政七の得票となるべきものであり、長田旭の得票中35 47は無効38 41 45は杉浦政七の得票となるべきものであること叙上の通りであるから杉浦政七の得票は従前の基本票五六四票が五六六票となり杉浦敏一の基本票五二九票が五二七票に原告長田旭の基本票五二九票は五二五票となり尚右原告の右有効投票中には別に長田精一との得票数に応じて按分すべき票が一票(法六十八条の二)存することは当事者間に争のないところであるから原告の基本票は五二四票となり従つて右によつて改めて杉浦敏一の按分票を前掲甲第二号証により求めると〇、九〇三票となり之に前示五二七票を加えた五二七、九〇三票が杉浦敏一の得票となり原告長田旭の按分票を前掲甲第二号証の六票に前示按分票一票を加えて求めると二、一四四票となり之に前示五二四票を加えた五二六、一四四票が原告の得票となるを以て原告の得票は僅かに右杉浦敏一に及ばない

よつて被告委員会がなした前記裁決は理由中の一部において右判断と異る部分もあるが結局において正当であり原告の本訴請求は之を認容し難く之を棄却せざるを得ないよつて訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する

(裁判官 高橋嘉平 伊藤淳吉 木村直行)

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